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東京高等裁判所 昭和25年(う新)4010号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中、被告人梁奇容に対しては百日を同被告人が原判示第四の事実について言渡された懲役の本刑に算入し、被告人斎藤清に対しては百日を同被告人が言渡された本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、末尾に添付してある被告人梁奇容の弁護人鈴木喜太郎、同正田光治、同上月一男共同作成名義の控訴趣意書、被告人斎藤清及び同斎藤正男の弁護人福田覚太郎作成名義の控訴趣意書並びに被告人斎藤勝長の弁護人山口与八郎作成名義の控訴趣意書に各記載のとおりである。これに対し当裁判所は、左の如く判断する。

被告人梁奇容の弁護人の論旨第一点について。

記録に徴すると、昭和二十四年十二月十五日の原審第三回公判において所論住居侵入強盗傷人の事件につき証人白石正久の訊問が行われた際、同事件が被告人梁奇容については未だ起訴になつていなかつたこと、昭和二十五年一月十八日に同被告人についても同事件が追起訴になり、同月二十五日の原審第五回公判においてはじめてその併合審理が行われたこと並びに同年七月六日、原審第九回公判について裁判所の構成並びに同年七月六日、原審第九回公判について裁判所の構成変更に基く公判手続の更新が行はれた際、検察官が前記第三回公判調書中の証人白石正久の供述記載部分の取調の請求を行い立証趣旨を述べ、これに対し同被告人及び弁護人がその証拠調に異議なく、これを証拠とすることに同意する旨述べた後、裁判所が右証拠の取調を行つたことが明かである。そして検察官が右原審第九回公判において右証拠の立証趣旨を述べたところは、以上のような訴訟の経過に照らし考えると前記追起訴にかかる住居侵入強盗傷人の起訴事実立証のためである旨述べたものであることは容易に推知し得るところであるから、このような手続が履践された以上右住居侵入強盗傷人の公訴事実の証拠として右原審第三回公判調書中の同証人の供述記載を引用することは何ら差支ないものと解するのを相当とする。従つて原判決には所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

被告人梁奇容の弁護人の論旨第二点について。

原審第九回公判調書の記載に徴すると、被告人梁奇容に対する所論、昭和二十五年一月十八日附及び昭和二十四年八月十三日附起訴事実について、検察官がその釈明又は訂正を申し立てておりその中には、訴因の変更と目すべきものも存ずることが認められるが、検察官のこの申立は同被告人出頭の同公廷において、口頭をもつて行われたものであり、これに対し裁判所はこれを却下することなくして次の手続に進んでいること明らかである。かかる場合裁判所が取り立てて訴因変更許可の決定をするまでもなく刑事訴訟法第三百十二条第一項による訴因の変更の許可がなされたものと認めるのを相当とする。尤も裁判所が同法条第三項に則り右訴因の変更を被告人に通知した形跡は記録上発見できず、この点違法のそしりを免れないが、いやしくも前記のように被告人出頭の公廷において検察官が口頭で右訴因変更の申立を行つたものである以上、同一内容の事項を更めて裁判所から被告人に通知しなかつたからといつて、右違法を目して判決に影響を及ぼすものと認めることはできない。従つて原判決に所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

被告人梁奇容の弁護人の論旨第三点について。

所論昭和二十五年(を)第二〇七号及び同年(わ)第一三号について弁護届が存しないことはまことに所論のとおりである。

しかしながら所論鈴木喜太郎、藤原万蔵及び権逸は右両事件についても弁護人として行動していることは記録に徴し明らかであるから、同人等は右両事件についても同被告人から、弁護人として委任を受けたことを推知できる。ただその選任について刑事訴訟規則第十八条の方式を履むのを怠つた違法があるのみである。しかしながらこの違法は未だもつて判決に影響を及ぼすこと明らかなものとは認められないから、原判決には所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

被告人梁奇容の弁護人の論旨第四点について。

同被告人に対する原判示各犯罪事実はその挙示の証拠によりこれを認あるに十分である。所論に鑑み記録を精査しても右認定が誤りであると思われる廉は存しない。論旨は理由がない。

被告人梁奇容の弁護人の論旨第五点について。

所論確定裁判を経た窃盗幇助の罪と所論強盗傷人又は窃盗未遂の罪とは、前者は他人の犯罪に従属して成立する犯罪であり、後者は被告人自らの犯罪であるから、連続犯の関係に立ち得ないものと解するのを相当とする。論旨は独自の見解であり、採用することができない。

被告人梁奇容の弁護人の論旨第六点について。

原審第三回公判調書によれば、証人白石正久が昭和二十四年十二月十五日の同公判期日当時窃盗罪により懲役八年の刑を言渡され控訴中であつたことは認められるが、同人が所論強盗傷人事件について起訴されたか否かは記録上明らかでない。しかしながら、いづれにしても原審公廷において同証人から所論のように真実の供述を望むことができないというような状況は記録上何ら発見できず、従つて原判決が同証言を証拠として採用したことを目して所論のように一般経験上の法則に反した違法のものと断ずることはできない。論旨は理由がない。

被告人梁奇容の弁護人の論旨第七点について。

所論原審第九回公判調書中には記載が簡粗に過ぎ難解の箇所も存在するが、その引用の各起訴状の記載と対照して検討すると、同公判調書の記載内容はすべてこれを諒解することができる。結局同公判調書には所論のように同調書を無効にさせる程に文意不明の箇所は存在しない。論旨は理由がない。

被告人梁奇容の弁護人の論旨第八点について。

記録を精査し諸般の情状を考察すると論旨指摘の事情を参酌しても同被告人に対する原審の量刑を目して失当と認めることはできない。論旨は理由がない。

被告人斎藤清、同斎藤正男の弁護人の論旨第一点について。

被告人斎藤清及び同斎藤正男に対する原判示各犯罪事実は原判決挙示の証拠によれば、これを認めるに十分であり、所論に鑑み記録を精査しても右認定が誤であると思われる廉は存しない。論旨は理由がない。

被告人斎藤清、同斎藤正男の弁護人の論旨第二点について。

同論旨に対する判断は被告人梁奇容の弁護人の論旨第六点に対し之に示した判断と同一である。論旨は理由がない。

被告人斎藤清、同斎藤正男の弁護人の論旨第三点について。

所論各原審公判調書によれば、検察官は本件起訴にかかる幾多の訴因中、詐欺恐喝同幇助、住居侵入強盗傷人、賍物牙保等の各訴因を個別に指摘してその各個の事実毎に証拠の取調を請求する旨の陳述を行つたこと明らかである。そして右指摘せられた各訴因の内容その他訴訟の状況に照らし考察すると、刑事訴訟法第二百九十六条の要請するいわゆる冒頭陳述は右の程度の陳述をもつて足りるものと解するのを指当とする。論旨は理由がない。

被告人斎藤清、同斎藤正男の弁護人の論旨第四点について。

原審第九回公判調書を検討すると、所論の記載部分は原審裁判所の構成変更に基く適式な公判手続更新の経過を記載したものであることを諒解するに十分であり、同調書には所論のように判決に影響を及ぼすような不明確な記録は存在しない。論旨は理由がない。

被告人斎藤清、同斎藤正男の弁護人の論旨第五点について。

記録を精査し諸般の情状を考察すると論旨指摘の事情を参酌しても被告人斎藤清及び斎藤正男に対する原審の各量刑を目して失当と認めることはできない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条、刑法第二十一条に則り主文のとおり判決する。(昭和二六年一月一七日東京高等裁判所第三刑事部)

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